+若山隆行エッセイ

『髭聴盤☆プレミアム!』

 さてみなさんこんにちは。立川亮とタンゴアカシアーノのベースマン、若山隆行でございます。
 今回各メンバーに割り当てられた「エッセイ」でありますが、僕はその貴重なスペースを掟破りの「愛聴盤」のレコードをご紹介するコーナーとしたいと思います。

 「普通じゃ〜ん」というお声が聞こえてきそうですが、普通であることがどんなにたいへんなことか!普通の家庭を築くのがどんなに偉大なことか!!
 そんな普通の家庭を30年も維持できた親父とおふくろに感謝して、この普通のコーナーを遂行していきたいと思います。
 CDになってないものもあるかもしれませんが、気になったら がんばって探してくださいな。
 そう、「求める」という行為が大事なのです。そうすることによって、あなたにとってそれは大切な意味を持つものになり得るのです。

【2010年1月加筆】
 今までは「ウッドベースの入っている音源に限る。」という制限の下にお送りして来ていましたこのエッセイですが、最近は自分の中で、ウッドベース/エレキベースの境界線がいよいよ希薄になってきていて、その制限も「もういいかな。」という気分になっています。
 新しいコーナーを設けるというのも考えたのですが、「継続は力なり。続けることに意味がある。」ということで、2010年の今回からはこの「ウッドベース縛り」を解除し、タイトルも、「髭聴盤☆プレミアム!」とし、より広い範囲からの音楽を紹介したいと思います。「髭プレ」とでも略してくださいませ。「あ〜、タンゴを構成するセンスの一部はここらへんからも来ているのだなあ。」と感じていただいたり、今まで知らなかった音楽と出会える一助となれば幸いです。

若 山


 僕が60年代70年代のレコード盤にこだわるのは訳がある。
 それは、その年代に作られた音源を一番オリジナルに近い音で聴けるからだ。
 もちろんそれが数値の上での「良い音」かどうかは、両論あるとおもわれるが、僕は良い音だと思っている。

 音質以外にもその頃の音楽が好きな理由としては、音楽全体の時代的なテイスト、も勿論だが、音楽をやっていく上でのヒントが多く含まれている、という事もある。
 その頃の演奏家(歌い手も含めて)は、現在の演奏家より(世に出ている総数で比較すると)明らかに演奏力が高い。
 テクノロジーも現在とは比較にならないので、全て人の手によって演奏された音が記録されているはず。
 現在のように録音技術のみならず、演奏までもデジタル技術によってカバーできてしまう時代では、要は「絵」さえ描けて、音編集をできる人間がいればある程度形になってしまう。その「絵」が、そのアーチストの天才そのものだ、という人もいるだろうが、僕がそうは思わない。
 僕はその「絵」とフィジカルな人の手による演奏が噛み合ってこそ、美しい音楽ができるのだ、と思っている。
 これは、自分がベースというフィジカルな楽器を演奏することによる極端な考え方かもしれないが、今まで崩れたことはない。
 その音楽家が死んだ瞬間、彼の音も永遠に失われる。だが、その記録物である音源は残り、とにかくその瞬間「生きていた」という証拠になる

 ま、こんな感じでこの頃の音楽を聴くには、リリースされた時の初版のレコードを聴くのが一番良い、(レコードはスタンパーというコピー専用盤を使うのだが、版を重ねるごとに劣化していく。要は再版を重ねるほど、よろしくない音になっていくということ。)ので、日々レコード店をうろつくことになるのだが、そういう僕も、これひとつの昔むかしの音源ということで、「新しいことに背を向けているんじゃないか?」とか「ただの懐古主義なのでは?」などと後ろめたい気分は多少ある。ま、でも「しょうがないじゃーん!こっちのほうがかっこいいんだもん!!」と毎回ねじ伏せるのだが、もちろん現在リリースされているもので、「おおっ!」と思うものを聴きたい、という欲はある。そしてそれに期待もしている。のだが、ま、なかなかテレビとかではお見かけしません。残念ながら。

 今回ご紹介するのは、こういうイマイチ現代の音楽に乗り切れていない僕を少し安心させてくれたレコードです。


第四十四回 Tedeschi Tracks Band / Revelator

 「テレビではお見かけしない」などと書きましたが、このテデスキ・トラックス・バンドをテレビの音楽クリップ番組でたまたま見た時はドキドキしました。
 番組名は忘れちゃったのですが、TVKだったかなと思います。最近は音楽クリップなんかを見てもすぐチャンネルを替えちゃうのですが、この時は、その前にやっていた黒人のR&B的な人がちょっと変で面白かったっていいうのもあってチャンネルはそのままでした。
 それが終わって、このバンドのクリップが始まった時は、地味なスタートで印象に残るような感じでもなかったんですが、メンバーが70年代のソウルっぽいテイストの佇まいで、「まあ、こういうのが好きな連中がなんとなくテイストを取り入れたよくある中身のないジャズファンクバンドだろ。」と穿って見てました。

 あれ?でもなんかおかしいな?そういう連中にありがちなウソっぽさが無いね。たしかに古い音楽が好きそうではあるが、なんとなく好き、とかではなくきちんと愛しているいる感じだね。そして完全に皆さん先達の遺産を自分のものにしている・・・。

 こう思った理由は、皆さん若かったからです。そして若すぎなかったからです。ブルースやソウルを根幹にある音楽はやはり、それ相応の人生を反映してこそ、というのもあり、10代ちょろちょろの子に演られてもイマイチ説得力に欠けると思うのですが、なんつーか、力みすぎてないというか、「いや僕ら元々こういう感じだし、わざわざ昔っぽい感じで売り出します。ってスタンスにしなくても良いじゃん。」という風で音楽に嘘がないように聴こえたのです。

 音楽やメッセージに嘘がない、というのは他のミュージシャンでも感じることはできますが、こと彼らに関しては「音に嘘がない」ことがすごく良くて、僕は嬉しくなったのです。後で知ったのですが、中心人物である、ボーカルギターのスーザン・テデスキとギターのデレク・トラックス、この二人は夫婦だそうで、このスーザンさんも往年のアトランティックやスタックス、ハイのソウルが好きなんだろうな〜というソウルフルな歌いまわし。だが、濃すぎない。白人女性なのだが、無理に黒人になりきろうとしていないところが良い。Cold Bloodのリディア・ペンスやボニー・レイットなどが思い出される感じである。そしてびっくりしたのがギターのデレク・トラックス。左手の指にガラスのビンの頭を取り付けて行う「スライド・ギター」をメインとしたギタリストなのだが、この音がすごい!「うわ!マジか?現代でこんな音を持っている人間がいたのか!」と僕ビックリです。

 こと80年代からはキャラクターとしては突出してはいるものの、妙にデフォルメしすぎて「本来のギターの音」からはかけ離れた音を出すギタリストが多かったと思う。最近は少しそれも変わり、「ギター本来の良い音」を出そうとしているミュージシャンも増えているように感じるのだが、その中でもこれは段違いでした。良いギター+良いアンプ+卓越した技術+センスがないと絶対にこの音はレコードとしては残せないものでした。さすがにこれが決定打になり、購入を決めました。ちなみにギタリストのデレク・トラックスはサザン・ロックの代名詞「Allman Brothers Band」のドラマー、ブッチ・トラックスの甥っこで、デレクという名も、かの名曲「いとしのレイラ」を生み出したエリック・クラプトンとデラニー&ボニーのバックメンとAllmanのスライド・ギタリストDuan Allmanから成るバンド「Derek&Dominoes」のDerekから取られたそうです。

 さて最新のリリースの音源を購入するのも久しぶりなので、一体どこに行けば売っているのか?それすら分からない状況。
 「近くのツタヤには無かったし、ま、明日下北行くからどこかにあるでしょ!」と思っていたら無かった・・・もしかしたらすっかりニューリリースに疎くなっている僕には探し出せなかっただけかもしれないが、とにかくがっかりしながら帰って来て、素直にネットで買うことにしました。本当はこういうドキドキを伴う買い物は直接ショップで手にとって買いたいのだが、背に腹、仕方なし。
 結局アマゾンで物色していたら、おやおや、アナログ盤もあるでないですか!正直最近録音されたものに関しては、最近のメディア(CD)で聴くのが一番だとは思うのですが、アナログで買っちゃいました。待ちきれなくて「当日お急ぎ便」などという有料オプションまで使って・・・

 届いたブツを開くと、2枚組。いやあ、なんかうれしいねえ、2枚組。ジャケットも再発などにみられるちょろいテロテロの感じは無く、愛情溢れる作りでした。
 中身はやはり予想したとおりの音。新しいことは一切やっていないし、熱いが、熱苦しくはならない抑制の効いた歌と演奏。1曲1曲解説を入れて行ってもよいのでしょうが、ちょっと陳腐になりそうなのでやめておこう。ただ、曲アルバム通して随所に先輩達の有名なフレーズやらが散りばめられていて、それを発見するという楽しみ方もあったりします。曲としては1曲目「Come See About Me」から4曲目「Bound For Glory」までの流れは完璧であります。そこで一息ついて5曲目「Simple Things」でアナログだと1枚目が終わります。

 2枚目はミドルテンポのソウルコーナーから、グッとテンションの高いベイエリア風ファンク(Cold BloodやTower Of Powerのような)をはさみ、バラード「Shelter」で完璧な流れのシメ。素晴らしい!僕は最初の3日は1枚目をずーっと聴いていたのですが、しばらくすると2枚目のマッタリ&へヴィな雰囲気も好きになり、きつも結局2枚分全部聴いてしまいます!あ、そういえば、このバンド、Allman Brothiers Bandと同じくツインドラムなんです。ツインドラムという諸刃の剣をリズムの核としていて、このアルバムではさほど表に出てくることはありませんが、止まることの無いキープオン・グルーヴィンで、非常に気持ちがよいです。

 ノラ・ジョーンズやジャック・ジョンソンなどの音の感じが好きな人で、ちょっとロックっぽい感じのも欲しいなあ、という人には絶対おすすめします。なおかつギタリストや若いミュージシャンにもできれば手にとってみてほしい。2011年の個人的にベスト作品です。できればライブが終わった後にでも皆さんに配って歩きたいくらいです(笑)

 それでは、また!

-2011.12月


第四十三回
essay & blog
mail
home